僕の父、母、兄は、それぞれが「自殺未遂」で集中治療室に入った事がある。
家族の中でも兄は、「複数回」の自殺未遂の経験者だった。
兄は自傷行為もしていて、「どれが自傷行為」で「どれが自殺未遂」だったのか、僕にはわからない。
「自傷行為」も「自殺未遂」もカウントしていては、それこそ膨大な数になってしまう。
そこで僕の中は、「集中治療室に入った」モノを「自殺未遂」とカウントしている。
正直、「家族の自殺未遂」は、僕にとって印象が薄い。
割とよくある事。
その程度の印象だ。
父も母も兄も「自殺未遂」をする家庭だった。
僕は「家族の自殺未遂」に慣れてしまったんだと思う。
ただ、そんな中にも「僕の印象に残る自殺未遂」もあった。
今回は、僕の印象に残った「兄の自殺未遂」のお話。
ゲームと天秤にかけられた「兄の自殺未遂」
僕が20代前半の頃だったか。
僕の携帯電話に母からの着信が入った。
「母からの着信」はロクなモノじゃない。
「お金の催促」「それ以外の厄介事」
このふたつがほとんどだ。
電話に出るのは気が重い。
だけど、出ないわけにはいかないよなぁ。
「渋々」といった様子で電話に出る僕に、母はこう言った。
カーさん「ニーちゃんが睡眠薬を大量に飲んで、病院に運ばれた。」
カーさん「チッタも病院に来てほしい。」
はああぁぁぁぁー…。(溜息
話は変わるけど、当時の僕には「唯一の癒し」があった。
「パワフルプロ野球」という野球ゲームがある。
このゲームには、「キャラクターを育成するモード」があるのだけど、そのモードで遊ぶのが「僕の癒し」だった。
この「育成モード」には、ごく稀に「天才型」と呼ばれる初期能力の高いキャラクターを引く事がある。
いわゆる「レアガチャ」みたいなモンだ。
母からの着信が入る直前、僕は「このゲーム」で遊び、更には「天才型」を引き当てたところだった。
「最高のプロ野球選手に育ててやるぜ…。」
そう息巻いていたところへの母からの着信だった。
「めんどくさいなぁ…。」
「せっかく天才型を引いたんだけどなぁ…。」
兄の病院搬送の話を聞いた僕は、そんな事を考えていた。
チッタ「今、ゲームで忙しいから行けません。」
僕にとっては、至極当然な返答だった。
僕は幼少期から少年期にかけて、兄から「理不尽な暴力」を受け続けていた。
その辺の詳しいところは、コチラを読んでもらえると嬉しいです。
と、まぁ、「そんな相手」の生き死になんて、僕にとってはどうでもいい。
兄の「生き死に」なんてモノは、「ゲームと天秤にかけられる」程度のモノだった。
なんだったら、「悩みの種がひとつ減る。」そんなモンだった。
モヤモヤする心。集中出来ない!!
母からの要望を拒否した僕は、再度「野球選手の育成」に勤しんだ。
しかし、なぜか凡ミスが頻発する。
集中出来ない!!
「イライラする」「モヤモヤする」
当時の僕には、その「イライラ」や「モヤモヤ」といった「心情」を「言語化」する事が出来なかった。
「心をかき乱す不快感」
そんな感じのモノが邪魔をする。
僕の心をかき乱す不快感はふたつ。
- なぜカーさんは理解してくれないのだろう。
- またアイツ(兄)は厄介事を持ち込みやがった。
当時の僕は、「この思い」を明確に出来なかったから「イライラ」「モヤモヤ」していたんだ。
少し詳しく解説します。
なぜカーさんは理解してくれないのだろう。
母には、幼少期から受けていた「兄からの理不尽な暴力」についてを話してあった。
僕は、兄からの「過去の行い」についての謝罪を受けていない。
そんな相手の「死に目」に会いたいと思うだろうか?
そんな相手の為に「自分の時間」を使いたいと思うだろうか?
どうにも母は「その辺」を理解してくれない人だった。
「今、ゲームで忙しいから行けません。」
これは、当時の僕が出来た「精一杯の反抗」だった。
「俺にとってのニーさんは、ゲームと天秤にかけられる程度の人間なんだよ。」
こんな思いのこもった一言だったのだけどね。
上手く伝わらないらしい。
母は「家族なんだから。」と言った。
まただよ…。
いつものクソみてえな「家族信仰」だ。
「自分に酷い行いをした相手」が「家族」なら、僕は自分の受けた傷をチャラにしなくてはいけないのだろうか?
無条件に「相手」を許さなければいけないのだろうか?
カーさん「親からすれば、チッタもニーちゃんも大事な子供。だから、ニーちゃんの為に動いてあげて。」
「これ」が母の言い分らしい。
「憎しみの対象」の為に行動をする。
「それ」を「断るのが難しい相手(母)」に強要されるのが、どれだけ傷付く事なのか。
なぜカーさんは理解してくれないのだろう。
言語化出来ない「これら」の思いが、僕の「イライラ」や「モヤモヤ」の正体だった。
またアイツ(兄)は厄介事を持ち込みやがった。
「とある問題」と「別の問題」が混合すると、怒りや悲しみといった「気分の良くない感情」が爆発する。
これは、僕が「そう」感じている事なんだけど、この事についても別記事にしてあります。
よかったら読んでみて下さい。
- 「チッタもニーちゃんが搬送された病院に来て。」
- 母からの「やりたくもない事」の強要。
当時、僕が抱えた問題は「これ」だ。
この問題に対して、僕は「行けません。」と断る選択が出来た。
この選択は「今の僕」が見ても、限りなく正解に近い選択だと思う。
しかし、当時の僕は
- 「アイツ(兄)は僕はカーさんを振り回してばかりだ!」
- またアイツ(兄)は厄介事を持ち込みやがった。
という「別の問題」を混合させた。
「連動した問題」ではあるけれど、この「ふたつの問題」は、別処理した方が良い結果になると思う。
「別の問題」を混合させたから、「イライラ」や「モヤモヤ」が無視出来ない大きさになったんだろうと思う。
当時の僕には「問題の整理」や「心の整理」をするチカラが無かった。
僕の数少ない「平穏な時間」は、母からの連絡が来た時点で消え失せた。
昼食の誘い。 友人の正体。
ゲームに集中出来ない僕は、友人を昼食に誘う事にした。
チッタ「もう昼飯食った?まだなら食いに行かね?」
友人「良いよ。どこ行く?」
チッタ「病院w」
僕は結局、兄が搬送された病院に行く事にした。
「イラついてゲームに集中出来ない。」
「せめてアイツ(兄)の姿を小馬鹿にしながら拝んでやろう。」
表面上はそんな風に考えていた。
ホントのところは、母に嫌われるのが怖かったんだろう。
だけど、「あんな啖呵を切った後」だ。
「食事」という名目で、友人に病院について来てもらう事にした。
僕のブログに度々登場する「友人」だけど、少し彼について説明しよう。
彼はいわゆる「幼馴染」で、昔住んでいた家のご近所さん。
僕の抱えている「家庭問題」をかなり把握してくれている、かなりありがたい存在。
そして、「兄の同級生」でもある。
兄のお見舞いに行く理由が「チッタの兄」以上にはあるわけだ。
「それ」とは別に、友人の持つ「兄の同級生」という属性は、かなり重要なモノ。
僕は友人に「兄にされた事」を話している。
モチロン、「事実」を話しているつもりだけど、どう頑張っても「僕視線の偏り」が出てしまう。
しかし、「兄と同級生」の友人は、学校生活なんかの「僕の知らない兄」を見ているわけだ。
兄からも「チッタの話」を聞いているかもしれない。
つまり、「僕から聞いた兄」と「友人自身が見た兄」という「ふたつの判断基準」を持っている事になる。
「友人の視線」で、「チッタの事」「兄の事」を見た上で、僕との付き合いをしてくれている。
だからこそ、僕の「クソ野郎」な部分も隠さずに曝け出す事が出来るのだと思う。
自殺未遂をして病院に搬送された兄。
そんな兄をあざ笑いに行くチッタ。
そんな「クソ野郎」な僕を、気兼ねなく見せる事が出来る友人。
僕にとって「この存在」は、心強く、ありがたい存在だった。
異質な空間。僕が震えた理由。
まずは、兄が搬送された経緯を説明しよう。
- 夜間、兄は家でひとりだった。
- 兄は「兄の彼女」へ、これから薬を大量に飲む(オーバードーズ)と連絡する。
- 「兄の彼女」は、母の連絡先を知らない。
- 「兄の彼女」は、兄の元へ駆けつけたが、夜間という事もあり、「発見」が遅れる。
- 病院で「胃の洗浄」をしたけど、搬送までに時間がかかった為、結構危うい状態。
こんな感じだ。
兄はこれまでも何度か「自殺未遂」で入院した事がある。
しかし、今回の様に「発見まで時間がかかった」自殺未遂は初めてだった。
僕と友人は、病院入り口で母と合流した。
母から、兄の容体についての説明を受けた。
チッタ「ふーん…。」
鼻くそでもほじってやりたい気分だった。
兄は集中治療室から個室に移ったらしい。
僕達が病室に入ると、「ベッドに寝る兄」と、隣には「暗い表情の女性」が座っていた。
まぁ、兄の彼女さんなのだろう。
話には聞いていた気がするけど、対面するのは初めてだ。
母も今回、初めて会ったらしい。
母は息子(兄)と同居していて。
息子(兄)は何度も「彼女」を家に呼んで。
だけど母は、その「彼女」との初対面が息子(兄)の病室。
なんなんだこの異質な空間は…。
僕は何を見せられているんだw
この時の僕は、小さく震えていた。
それは、「自殺未遂をした兄」への悲しみでも、「いつも迷惑をかけてくる兄」への怒りでもなかった。
兄の鼻が気になるw
兄は何度か「整形手術」をしている。
兄の鼻には「人工軟骨」が入っているんだ。
その鼻に「人工呼吸器」だか知らんけど、管が入っていた。
「兄」と「母」と「兄の彼女」のいる、なんとも言えない「異質な空間」。
そこに来ての兄の鼻。
「鼻に管が入って、鼻が盛り上がってるけど、果たしてそれは管のせいなんだろうか…w。」
不自然な鼻の盛り上がり。
それは僕の「ツボ」を刺激した。
僕は変なスイッチが入ってしまい、笑いを堪えていた。
断っておくけど、「整形している人」をバカにする気は無い。
「親のお金(僕のか?)でやりたい放題している兄が、整形手術とか何様だよw」って話。
まぁとにかく、変なスイッチが入った僕だけど、更なる追い討ちがかかる。
兄が急に痙攣し始めたのだ。
兄は結構ガタガタ震えてた。
僕は「ニーさんも、この状況に耐えられなくなったか!?」なんて考えてしまった。
そして僕も一緒に震えてた。
彼女さん「〇〇(兄の名前)!!大丈夫だからね!!」
カーさん「ニーちゃん!!苦しいの!?」
やwめwてw苦しいw
僕は耐えられなくなり、友人と共に病室を出た。
今後の話。 母のズルさ。
僕と友人は、病院内の食堂で昼食を食べる事にした。
「病院内の食堂は安いだろう。」
なぜかそんな期待をしていた僕だった。
期待に反し、「そこそこな値段」と「冷凍食品の様な食事」にガッカリしたのを覚えている。
食事が終わり、僕と友人は兄の病室に戻った。
兄の痙攣は治り、病室内は静かなモンだった。
母は僕と話があるらしく、ふたりで外へ出た。
- 兄の状態は危うい。
- このまま目を覚さない「植物状態」になる可能性がある。
- その際の「生命維持」をどうするか。
要約すると、こんな感じだった。
「この人(母)ズルいなぁ。」
僕はそう感じた。
んなモン、僕にしてみれば「生命維持しない」の一択だ。
しかし、僕が「その選択」を提示すれば、僕にも「責任」が伴う。
母も「そんな選択」を匂わせていたけど、僕に後押しして欲しい様子だった。
母としても、兄は大事なのは間違い無いのだろう。
しかし、「母の収入では賄えない」兄の金遣いや、その他モロモロ。
母自身にも、「兄は手に負えない」といった悩みや不安があったのだろう。
兄の意見はどうなんだろう?
兄は「薬を飲む前」に、彼女へ連絡した。
つまり、本気で「死ぬ気」は無かったんじゃないだろうかと推測する。
「その思い」を無視する選択を提示すれば、やはり僕は業を背負う事になる。
チッタ「好きにしてくれ。」
正直、僕は兄に、そのまま死んで欲しかった。
「だけどニーさんが死ねば、カーさんのケアもしなきゃならんだろうなぁ。」
「あぁでも、カーさんのケアが必要なのは、ニーさんが植物状態になっても同じか。」
どっちにしても、めんどくせえな。
じゃあ僕も「ズルい」返答をしよう。
僕の兄に対する「生き死に」なんて、ゲームと天秤にかけられる程度のモンだ。
「その後」の事で「業を背負う」なんざ、まっぴらごめんだ。
「その業はアンタ(母)が背負ってくれ。」
これが僕の主張だった。
兄の生還。 コイツらは同じ事しか言わねえな。
結果から言うと、兄は後遺症も無く生還した。
この一件で、「家族の自殺未遂」に対する、僕が感じる「オオカミ少年感」は加速した。
コイツらは「自殺」では死なん!!
後日、母から兄についての話を聞いた。
兄が目を覚まし、まともに話せる様になった頃に言ったそうだ。
ニーさん「なんで助けたんだ。」
僕の父が自殺未遂をした際も同じ事を言ったらしい。
コイツら、同じ事しか言わねえな。
まぁ、親子だしね。
しかし、父にしても、兄にしても、このセリフには「ある思い」が込められていた様に感じる。
助けてもらって「嬉しい」クセに。
心配してもらって「嬉しい」クセに。
その「思い」を信用出来ない状態にあったのではないか?
僕は勝手に「そう」解釈している。
「なんでもっと早く助けなかった!?」
「なんでこうなる前に助けてくれなかった!?」
「本当に心配してるのか!?」
「本当はいなくなって欲しかったんだろ!?」
そんな事を言いたかったのではないかと、僕は勝手に想像している。
事実、兄は母に「死ななくて残念だったな。」と暴言を吐いたらしい。
その話を聞いた僕はブチ切れた。
ブチ切れて「こうすれば人は死ぬってやり方はどうした?」と兄にメールした。
その当時の僕は、まだ「自分の事情」すらも整理し、把握していなかった。
モチロン、父や母や兄の「事情」なんて考えもしなかった。
「やりたい放題しやがって。」
そんな感想だった。
だけど、「彼(女)らの事情」を探っていって、少し考えが変わった。
集中治療室に入る程の事をしたからには、彼(女)らだって相応の苦しみを抱えているんだろう。
そりゃあそうだ。
じゃなきゃ自殺(未遂になる様な事)なんかしないわな。
兄は「死にたいんじゃなかったんだ」と思う。
誰かに「心配されたい」とか「必要とされたい」とかって思いが捻じ曲がっての行動だったんじゃないかと思う。
兄の計画が狂い、発見が遅れ、一時は危ない状況になってしまった。
当時の僕には、「ゲームを中断させられた」程度の一件だった。
だけど、今考えると、兄の「苦しみ」や「思い」が詰まった一件だったのではないかと感じる。
母はわからないけど、兄はどうやら今も生きている様子だ。
どうなってる事やら。
過去を思い返し、そんな事を思った。
花粉症ツラいです。